岩手県沿岸部の水産加工業者に、作業の無駄を徹底的に省いて生産性を高めるトヨタ自動車の「カイゼン」方式を導入する動きが広がっている。
水産加工業は地域の主力産業だが、東日本大震災による津波で多くの工場が被災し、事業を再開しても働き手の不足が深刻な状況だ。県もカイゼンの導入を後押ししており、生産性の向上で、水産加工の復興を目指している。
生産性向上図る…岩手県も後押し
津波で工場が流された同県山田町の木村商店。5月29日、昆布巻きやサバみそ煮などの総菜を作る新工場に、トヨタ自動車東日本の社員2人が訪れた。生産工程管理などの経験が豊富なカイゼンの指導員だ。
「手作りにこだわっているが、作業に無駄が多い。在庫管理も難しい」
木村トシ社長(69)が悩みを打ち明けると、指導員は「設備を入れても邪魔になるケースがある。お金をかけず(従業員の)動作改善を進めましょう」と提案した。
カイゼンの導入は、震災後、県が仲介を始めた。これまでに水産加工業の10社が取り組み、2013年度も木村商店など7社が新たに指導を受ける。
県が導入を進める背景には、水産加工業を取り巻く現状がある。
県沿岸広域振興局によると、沿岸部には水産加工業の工場が約350あったが、津波で約140が全半壊の被害を受けた。震災2年を経て、事業を再開した業者も多いが、働き手の確保に苦労している。国が被災地の雇用情勢を調べたところ、県沿岸部では今年4月、水産加工業で働きたい人の割合が求人数の半分にも満たなかった。
同局は「カイゼンで生産性が向上すれば、賃金の上昇も期待できる。それが働き手の不足解消につながれば、地域も復興していくはずだ」と期待する。
カイゼンに取り組んだ業者には成果も表れ始めた。
津波で工場が全壊した大船渡市の森下水産は11年10月から、再稼働した工場の竜田揚げを製造するラインで、トヨタOBの指導を受けた。従業員の移動歩数を減らしたり、トレイを上げ下げする動作をなくしたりした結果、生産能力が2割ほど上がった。
森下幸祐専務(55)は、「車を作っていた人に水産加工業が分かるのか半信半疑だったが、効果があるのを実感できた。カイゼンを工場全体に広げたい」と語る。
ただ、カイゼンは厳しい経営の即効薬になるわけではない。多くの水産加工業者が震災で販路を失ったまま。円安による原材料費の値上がりも響いている。
それでも森下専務は、「従業員から『ラインの配置を変えたい』などと前向きな意見が出て、働く意識が変わったのを感じる。コツコツと続けていけば、長期的にはもっといい影響が出てくるかもしれない」と話している。
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